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《みことば》 「伝える」
《聖  書》 使徒言行録 14:21-27

伝承

 私たちが今信じている信仰内容は、誰かが伝えたからこそあるのです。最初の弟子たちが伝えたケリュグマと呼ばれる信仰宣言も、口で伝えられてきました。
 この口で伝えられて来たものを、普通、伝承と呼んでいます。伝承は書き留められずに口から口へと伝えられていったものであり、聖書も伝承を書き残したものと見る事ができます。しかし、書かれずに伝えられていった伝承もたくさんあります。人々に知られる事なく消えていったものもありますが、特に大切なものは次ぎから次ぎへとしっかりと伝えられていきました。

    福音伝承

 福音書は長い間、イエスの地上の生涯を実際に起こった通り史実に従って、時間的順序を追って語られた伝記であると考えられて来ました。そして、四つの伝記をうまく調和し、一つにまとめる事によって、イエスの伝記を作る事ができると考えられ、たくさんのイエスの伝記が書かれてきました。
 しかし、福音書の研究が進むにつれて、第一次大戦前後には「様式史的方法」が主張され始めました。ここでは、福音書が多くの伝承資料に基づいて書かれたものであり、これらの断片的な資料は、文字に記される前は、口伝として教会の中で伝えられていた事が明らかにされました。こうした口伝は、教会の信仰生活の中で、宣教や、信徒の養成、典礼とい った場でだんだんと形成されていったと考えられています。
 さらに、第二次大戦後には、「編集史的方法」が主張され、伝えられた伝承をまとめた福音書記者の思想が注目されるようになって来ました。
 こうした研究が進むにつれて、福音書を通してわれわれが見い出すイエスの像は、本当にイエスの史実なのだろうかという疑問が出され始めました。この「史的イエスの問題」は現在もいろんな意見が出され、一つにまとめる事はできません。しかし、はっきり言える事は、今までのように福音の記述をそのまま史実として受けとめる事はできないが、イエスの生涯を福音書から知る事が可能であるという事です。
 確かに、私たちはイエスの伝記を知る事ができませんが、特にイエスの言葉とその行動について、断片的な資料を手にする事ができます。こうした資料を通して知る事ができるイエスの姿こそ、私たちの信仰の力になるのです。
 このように見てみると、伝承という大切な作業を通して、私たちの信仰は伝えられ、強められて来た事がわかります。しかも、聖書資料だけではなく、今も教会の中でいろんな伝承が伝えられて来ている事に注意を払う事が必要だと思います。

復活節第5主日第一朗読C年(瀧野正三郎)
[こじか1980.5.4号掲載文を加筆修正]

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